(株)ココチ設計事務所
一級建築士事務所
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−建築家と町医者−
 
建築家の社会的地位というものは、果たしていかほどのものだろうか。
これはおそらく、とても低いものだと思う。
 
仕事のハードさに比べて報酬が低いとか言うわけではない。
人々に尊敬されていないと思う。
別に尊敬されたい訳ではないが、
建物を設計するという行為が、あまり重要視されていないのだ。きっと。
 
ちょっと極端かもしれないが、
家なんて屋根があって、壁があって、雨露しのげて寒くなければ、
後は部屋の広さだけ確保できればそれで満足、みたいなところがある。
 
建物、たとえば家を設計するということは、
ただ単に家の形・大きさを決めて、どんな仕上げにするかを決めれば言い訳ではない。
 
当たり前だが、家を建てた後はそこに人が住む。
住人はそこで歩き、座り、寝て起きて、食事をし、本を読み、音楽を聴き、
シャワーを浴び・・・生活をする。
 
住人の生活を考えた時、床の仕上げは木がいいのか、タイルが良いのか、
壁の仕上げはクロスが良いのか、土壁がいいのか、
陽が当たる方がよいのか、当らないほうがよいのか、
風が入るほうがよいのか、静かなほうがよいのか、開放的なほうが良いのか、
各部屋の位置関係は、大きさは、隣地との関係は、土地の気候は、歴史は、・・・。
 
設計という仕事は、表面的なデザインをする仕事ではない。
環境を作り出す仕事だ。
 
言い換えれば、どんなデザインにするかということも、
環境に影響を及ぼすことになるので、
(壁も床も天井も真っ赤な部屋に住んでいたら落ち着かないだろう。)
グラフィックポスターを作るのとでは、デザインの意味が違ってくる。
 
小さい頃は家の近くに掛かり付けのお医者さんがいて、
ケガするたび、病気をするたび、お世話になった記憶が誰でもあると思う。
 
自分はそんな町医者の先生達の姿が、尊敬と感謝の念とともに記憶に残っている。
 
自分の体の悪いところを治してくれて、自分を救ってくれた。
ケガを治す、病気を治す技術と知識を持った先生達がいなければ
自分は死んでしまったかもしれないし、
とても、毎日を楽しく笑顔で過ごすことなどできなかった。
 
医者という職業の社会的貢献度、重要性を、
自分達は身をもって体験し、理解し、
それゆえ、医者という存在を、私達は尊敬の念を込めて「先生」と呼ぶ。
 
設計という仕事は、診療という行為に通じるところがあると思う。
建築家は設計という作業を通して、そこに住む人が生活する環境を作り出す。
肉体的、精神的に健康であるためには、それに見合った環境が必要であり、
それを作り出すことが設計という仕事なのだ。
 
環境は人々の健康、ライフスタイル、家族関係、交友関係にまで影響する。
家を作ることが、そこに住む人の人生にまで係わってくるというのは、
決して大げさな表現ではない。
 
自分は建築家という職業が医師と同じように、
人々の生活に必要不可欠な職業だと思うし、
環境を作ることで、社会に貢献しなければいけないと思う。
 
職業の本分を果たすことで、人々の記憶に残る。
そんな町医者のような存在に、自分もなりたい。